「サイレント・ブレス」-読書案内

   

今日ご紹介の本は書評欄を見て興味を持った本です。

文章サポートライター梨理です。

 

主人公は、大学病院から訪問クリニックに異動となった女医。

複雑な思いを抱えながらも、終末医療に取り組んでいく様を描いています。

タイトルのサイレント・ブレスとは、穏やかな終末を迎えることを

イメージしてつけられた作者の造語だそうです。

読書

「サイレント・ブレス」 南 杏子 著

出版社:幻冬社

分類:日本の小説

著者は、出版社勤務から大学病院の医師となり、

終末期の医療に携わっておられる方です。

この本がデビュー作とのこと。

主人公の医師とも重なる部分がありますね。

 

冷静な医師の目から見た、終末期の人の身体とひとりの人間の心情が、

バランス良く織り込まれています。

終末期の小説の中でも、これほどまでに医療的な具体性を持って、

人の身体を描写しているものは少ない様に思いますね。

 

終末期の医療的エッセンス

  • 体液の異常な貯留は胃を持ち上げ、横隔膜の動きを制限する。
    食欲だけではく、いずれ呼吸も妨げることになるだろう。
    そろそろ腹水を抜く必要がある。
    楽にはなるが、栄養分が抜け体力は落ちていく。
    限界を超えた苦痛を放置する訳にもいかない。
  • 医療用モルヒネ、強い痛みがある場合は痛みを取る作用が先に出る。(以上 ブレス1 より抜粋)
  • 脂肪が落ちきった皮膚は弱い。寝ているだけで圧力がかかる部分の血流が悪くなり、やがて壊死する。
  • 筋力が弱くなると、トイレに立つとか座るというのは、走ったり重い荷物を持って動いたりするようなもの。
  • 死は、誤嚥性肺炎が引き金になるのが多い。
  • 胃瘻は点滴より高い栄養補給が可能になるが、
    食べる行為をしなくなると、全身の活動性も落ちてしまう方が多い。(以上 ブレス3 より抜粋)
  • 痰は膿のようなもの。肺の菌を排除する為の白血球細胞と菌の死骸が痰となる。
    気管支から喉元にたどり着く。頻回な吸引操作は気管を傷つける。痰が上がってくるのを待つばかり。
  • 維持輸液500ミリリットルで100キロカロリー前後。水分補給程度の意味しかない。
  • 小さな床ずれは、マッサージで血流を良くすると皮むけまでいかない。
    体位交換は三角枕。寝間着の皺も伸ばす。( 以上 ブレス4 より抜粋)

名前だけは聞いたことがあっても、体験したことのない一般人にも、

かみ砕いてわかりやすく説明されています。

小説というフィクションの世界の中で、終末期医療の現実が理解しやすくなっています。

心のエッセンス

  • あのとき、どうしてドライブしなかったのだろう。
    どこでもよかったのに。あの日しかなかったのに。
  • HappinessとHappeningの語源は同じ。
    だから僕は、何が起こってもハッピーでいようと決めたんだ。(以上 ブレス2 より抜粋)
  • 治る人とそうでない人の差には、医療を超えた何かがあるように思う。
    あえて言えば寿命、生まれながらに持っている運命や生命力なのかもしれない。
  • 患者の思いを尊重するのが本来の医療の姿。
    医師として、命が自然に尽きていくのをじっと見守るだけというのは迷いが大きく、
    簡単なことではない。
  • 父は間違いなく母をささえている。生きているというだけで。(ブレス3 より抜粋)

読み終えて

大学病院から左遷されたと思っていた主人公が、

在宅医療の現場でたくさんのいのちと出会い、肉親の最期も在宅で看取る決断をします。

 

現在、終末期医療専門病院の勤務医という作者の姿がだぶります。

実際の大学病院も、在宅医療の重要性を考える時代に変わりつつあるのではと、

微かな光明を感じました。

 

人生後半と自覚している者には、避けては通れない主題ですね。

また、人生これから!の若さあふれる世代の方にも、いのちを考える契機となり得る本です。

誰でも必ず行く道ですから。

書誌データー

* サイレント・ブレス
出版年:2016年9月8日

出版社:幻冬社

分類:日本の小説

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